ひとりレトロスペクティヴ/『BU・SU』

slowlearner_m2009-03-08



3/21(土)から、いよいよ渋谷ユーロスペースで『市川準監督のこと 追悼・市川準監督レトロスペクティヴ』が始まります。その準備も兼ねて、時間がある時に市川監督のこれまでの作品を見返しておこうかと思っています。

今日は、市川監督の劇場映画デビューとなった富田靖子主演の『BU・SU』です。



この作品は、封切りでも見ました。
全編を通してニコリともしない富田さんが魅力的で、とても好きな作品です。
富田さんが演じるヒロイン麦子は、チラシなどでは「性格ブス」と書かれていましたが、「性格ブス」というよりもナイーヴで不機嫌な少女と言った方がいいかもしれません。

海辺の故郷から、東京の、神楽坂で置屋さんをしている大楠道代さん演じる伯母さんのもとに預けられる麦子。東京の高校になじめない麦子が、ちょっかいを出してくる男子生徒を俯いたまま手で払い除けるハイスピードのシーンがとても印象的です。せかせかとした歩き方も、雑踏の中で苛々と人を避ける歩き方も…。

この映画には、東京の東側の風景が、数多く映っています。
実景の多い映画です。それは単に実景というよりも、麦子が目にする初めての“東京”の風景です。



麦子は、歩き、様々な風景を目にします。
彼女は、“東京”を発見していくのです。この街で生きていくことを、その足許をひとつひとつ少女は確かめているような感じがしました。麦子には、“東京”がまだどのような場所なのか分からないのです…。映画を見ている私たちもまた、麦子とともに“東京”を発見していきます。


この少女像は、『buy a suit スーツを買う』のヒロイン・ユキに繋がっていきます。

市川準監督は、“東京”を撮ることでその経歴をスタートさせ、『buy a suit スーツを買う』に至るまで“東京”を愛し、撮り続けた監督です。
では、市川監督の愛した“東京”とは、どのような街だったのでしょう…。


驚いたのは、この映画に、遺影の中ではありましたが、品川徹さんが麦子の父親役で出演されていた事です。品川徹さんは、太田省吾さんが主宰する劇団転形劇場の名優です。しかし、小劇場の芝居をよく見ている人ならともかく、その当時は一般的に知られている俳優さんではありませんでした。市川準という監督は、なんてマメに芝居を見て歩いているのだろう、と驚いたのです。しかし、この後、たびたび市川監督のキャスティングには驚かされる事になるのです…。

今回、『BU・SU』は16mm版での上映となります。35mmのプリントではありませんが、ほぼ上映された事のない美しいプリントでした。『BU・SU』をなるべく美しい映像でご覧いただければと思い、このプリントで上映することにしました。

私も美しいプリントで、もう一度『BU・SU』が見たいと思います。

1度だけの上映となりますので、是非ご覧いただければ嬉しいです。

『BU・SU』(16mm版上映)


1987年/95分/製作=東宝映画 アミューズ・シネマ・シティ 配給=東宝東和

脚本=内舘牧子 主題歌=原由子あじさいのうた」

出演=富田靖子大楠道代、伊藤かずえ、高嶋政宏


海辺の街に育った麦子は、ひとり叔母を頼って上京した。性格が“ブス”な麦子は、芸者の見習いとなったのだ。初めてふれる東京。同級生たちの“いじめ”。ひとりの少女が、様々な経験を重ねる中で自分の殻を打ち破って成長していく姿を描く、市川準監督の映画デビュー作。


上映日:3/21(土)11:45〜・上映前に故市川準監督夫人・市川幸子さんによるご挨拶がございます。