東京。

slowlearner_m2009-02-10



今日のトピックは、『blue』『僕は妹に恋をする』の安藤尋監督との打ち合わせでしょうか。安藤監督とは、『dead BEAT』以来のお付き合いです。
二人で作ってみたい作品があるのです。


市川準監督が亡くなったとき、やはり映画の仕事をしている友人からメールをもらいました。
そこには、


「東京を撮れる監督がまたひとりいなくなった…。」


と書かれていました。


市川準監督は、“東京”にこだわり、“東京”を撮った映画監督だと思います。
小津安二郎監督の作品が好きだと伺ったこともありますが、作品のタイトルに“東京”という言葉をよく使っています。『東京夜曲』『東京兄妹』『東京マリーゴールド』『ざわざわ下北沢』…。タイトルに“東京”がついていなくても、『BU・SU』は、神楽坂の芸者の卵になる少女の話でしたし、『トキワ荘の青春』は、トキワ荘のある雑司ヶ谷、『会社物語』でも隅田川など東京を流れる川の風景にこだわって撮影されているようでした。


亡くなった後、『buy a suit スーツを買う』の助監督であり、CMの助監督を長く務められた末永さんは、市川さんにとっての“東京”は、ちょっと横に入ると路地のある、そんな“東京”だった、とおっしゃっていました。


先日、『buy a suit スーツを買う』の中で、市川監督は今の東京の変貌に苛立っているように見える、と書きました。

大阪から失踪した兄ヒサシを捜しに来たヒロイン・ユキは、吾妻橋のたもとでヒサシを見つけ出します。
その時、久しぶりに妹に再会したヒサシは、こんなふうに“東京”のことを言います。


「東京は、もうみんな自分のことしか関心ない。自分のことばっかりや。(…)カスみたいなヤツばっかりや。カスばっかりやねん、俺たちの回りは…」

もちろんヒサシは、しっかり者の妹に「でも、今のお兄ちゃんに説得力ないわ」と,
やんわりたしなめられてしまいます。

小林信彦さんの『私説東京繁盛記』を読んでいると、いつも切なくなります。


「『私説東京繁盛記』の〈繁盛〉というのは、当然のことながら反語であって、〈衰亡〉〈衰退〉を意味している。端的にいえば、〈荒廃しつつある東京〉ということである。


この本の中で小林さんは、〈町殺し〉にあった“東京”を、“東京”をそんな目に合わせた人々に対して怒りを隠そうとしません。この本には83年の渋谷駅前の写真が掲載されているのですが、そこには、もちろん109はなく、まだ渋谷の空は広々としていました。83年と言えば、私が東京に出て来た年でもあります。

『buy a suit スーツを買う』を見て、“東京”の変化にあれこれと思いをめぐらし、『私は猫ストーカー』を撮ることによって、わたしたちは、町の変化と、人の変化に、実際に直面することになったのです。