市川準監督の声

slowlearner_m2009-04-13



渋谷ユーロスペースと梅田ガーデンシネマで公開中の市川準監督作品『buy a suit スーツを買う』。今日は、助監督の末永さんから初日のトークショーで明かされた“秘密”を書いておこうと思います。
とは言っても、秘密というほどのことではありませんが…。

市川監督は、昨年の9/19未明、この作品の本編集を終えて、亡くなられました。
9/19は金曜日で、二日後の日曜日に、市川監督の遺志を受け継ぐかたちで、橋本泰夫さんや末永さんによってMA、つまり音の仕上げが行われました。
その時、本当なら消してしまうはずの市川監督が指示を出す“声”や“息づかい”を、消さずに二ヶ所そのまま残したままにしたそうなのです。



市川監督の演出は独特です。
監督はなかなかカットをかけません、ずっとカメラを回しながら…カメラが回っているのに声を出して、俳優たちに指示を出すのです。『トニー滝谷』の現場でご一緒した時、それを間近で見て、びっくりしました。カメラが回っているのに「イッセー(尾形)さん、〜して下さい」と指示を出されるのです。
映画の現場では、ない光景です。
思わず、録音の橋本さんを振り返ったものです。
橋本さんは苦笑しながらも、いつものことだよ、と涼しい顔をして音を録音していらっしゃいました…。

その“声”や“息づかい”が二ヶ所、『buy a suit スーツを買う』にはわざと残してあるのです。
多分…消すことができなかったのですね。

それは、市川準監督が、たしかにそこにいた、という痕跡なのですから。

市川準監督のこと』の予告編には、市川監督の「ヨーイ、スタート」の声を入れてみました。



DVDになった時には聞こえないかもしれない小さな声です。
劇場にご覧になる皆さんは、是非耳を澄ませてみて下さい。


そして、渋谷ユーロスペースの5/1(金)の21:05回上映前のトークショーが決定しました。ゲストは、劇団「五反田団」の主宰であり、『愛でもない青春でもない旅立たない』『恋愛の解体と北区の滅亡』など小説家としても活躍されている前田司郎さんです。



前田さんは、市川監督の新作の脚本を手がけていらっしゃいました。市川監督との共同作業のことなど、お聞きしてみたいと思います。